ホーム > President Blog : Sophia Cradle Incorporated

President Blog : Sophia Cradle Incorporated

President Blog

2004 年 12 月 15 日 : ビジネスの軌道 −後編−

何が起こるのかよく分からない未知の世界へ挑むには勇気がいる。だが、ワクワク、ドキドキする楽しく愉快な気分も同時に味わえる。そう、みんな子どもの頃は知らないことを、日々ワクワク、ドキドキしながら学んで成長していったと思うけど、そんな時の感覚に近い。大人になってからもこんなふうにベンチャーをするのは、ある意味ではいつまでもそんな希望や夢を実感していたいからかもしれない。

過去に存在しなかった前例のない製品を研究開発するだけでも大変なことだ。その上、製品が、お客様にとって、喜んでお金を払ってまで使いたいというレベルに仕上げることができなければ、ベンチャーは市場から姿を消す宿命にある。そういう世界に自分の身を置いている。

実際には、命を落とすわけではないのだけれど、命を賭けた冒険に近い一面もある。だからこそ、それを達成できたときの光景は、冒険者たちが自分たちの野望を果たした時と同じくらい、誇らしい充実感に満ちたものなのだろう。

製品を研究開発するにあたって、その実現可能性については、未知の技術ではあるが自分たち自身を信じるしかなかった。塵も積もれば山となるように、大きな目標を小さくブレークダウンして、一歩一歩堅実に着実にプロセスを進めていった。諦めず、粘り強く、頑張ることで、遂に製品は完成した。厳しい局面もあったけれど、なんとか乗り越えることができた。普通の人なら途中で挫折し、諦めてしまうだろうと思うほど、大変な時期もあるにはあった。人生を賭けてやるんだという意気込みが後押ししてくれたのだと思う。バージョン 1 にしてはなんて素晴らしい!と自画自賛できる製品を完成させることができたのだった。

報道機関にプレスリリース文で新製品について紹介すると、新規性があり、市場に及ぼす影響力があるかもしれないということで、新聞、インターネットなどのメディアに私たちの製品や技術が採りあげられた。たくさんの先進的なお客様からその無償評価版への申し込みが殺到した。普段何気なく接しているマスコミというものの有り難さをその時初めて味わった。

ソフィア・クレイドルが扱っている製品の場合、一番厄介なのは何かというと、テストデータを自社で作れるほど人や時間がないということだった。例えば、携帯 Java 専用アプリ圧縮ツール SophiaCompress(Java) の場合、お客様も、何人もの人、何ヶ月もの時間を投入して、やっとの思いで一つの携帯電話向けゲームとして完成させる。それが一つのテスト用データというわけだ。しかもプログラムの構造のバリエーションは数え切れない。それら全てのバリエーションに対応させなければ安心して製品として販売できない。自社で自力で全てのケースを網羅するテスト用データを作ることは事実上不可能だった。自社ですべてのテスト用データを作るとすればそれだけで数億円以上の費用がかかったことだろう。

しかし、SophiaCompress(Java) を提供した当時は、類似製品は市場に存在しなかったので、お客様は前向きに評価版を試してくださった。ある時は、SophiaCompress(Java) が未完成であったために圧縮できなかったアプリケーションを、多くのお客様がテスト用データとして無償提供してくださった。お客様のアプリケーションで発生した不具合を、その都度修正することを繰り返すことで、製品の信頼性が飛躍的に高まり、実用化のレベルに達していくのが、実際見ていてよく分かった。このようにして、製品はお客様の好意に支えられつつすくすくと育っていった。

もし製品レベルの類似製品が既に市場に存在していたとすれば、こんな手を打つことは事実上不可能だったろう。そのチャンスを掴むことによって、膨大なコストをかけることなく新規性のある製品が常に問われる「信頼性」というものを飛躍的に高めていったのだ。同時に、お客様との対話を通じて、ニーズやウォンツを取り入れて、実用的な水準へとその価値を高めていった。このように、安心して、飛行機に乗れる状態にしていったのだ。

いまから、同じジャンルの製品を開発していこうとすれば、このような方法は難しいであろう。何千、何万もの膨大なテスト用のプログラムを自前で用意しなければならないし、信頼性を上げるためにその数を増やそうとしてもほとんど不可能だ。何よりも先進的なお客様との対話も難しい。恐らく、こういう背景があることも、競合他社が未だに現れない事情になっているのだろう。

新規性のある製品の場合、機能性以外に「信頼性」というものが大きくものをいう。我々は信頼性を飛躍的に向上させるために以上のような手段をとった。ご協力いただいた先進的なお客様には言葉では言い尽くせないほど感謝している。

こういう事業の進め方において、リレーショナルデータベースの世界ではダントツでシェアナンバー 1 の米国オラクル社が創業時に採った戦略を参考にした。リレーショナルデータベースの理論を世界で初めて考案し、発明したのはIBMEdgar F. Codd氏である。オラクルの創業者であるラリー・エリソン氏は、いち早くその論文を読み、その将来性を見抜いた上で、IBMよりもずっと早く未完成なリレーショナルデータベースを世の中に提供し始めた。当初、そのデータベースはバグだらけで、ほとんど使いものにならなかったらしい。が、リレーショナルデータベースを待ち望んでいた熱狂的な一部の顧客から支持され、いろんな不具合や市場ニーズを取り入れることを繰り返すことで、それを発明した IBM を差し置いてリレーショナルデータベースの市場では圧倒的なナンバー 1 企業となったのである。

歴史は繰り返すという。過去の事例から、適用できる手法はないかどうか探したり、研究することで得られる教訓は数知れない。


追記:

オラクル創業者、ラリー・エリソン氏の参考となる言葉

"I admire risk takers. I like leaders - people who do things before they become fashionable or popular. I find that kind of integrity inspirational."

2004 年 12 月 14 日 : ビジネスの軌道 −前編−

人はさまざまな経験を、記憶の中に残して積み重ねつつ、いつしか成長を遂げる。ふりかえってみて、成長の分岐点を見出すこともあるし、分からないこともあるだろう。

新規性のある製品は、どのように成長するのだろうか。

新規性のある製品とは過去に存在しえなかった製品である。

それを使用するということは、世界で初めて開発された飛行機に搭乗するようなものであるかもしれない。墜落する危険性を考えれば、誰しも乗りたくない。

大空を飛びたいという夢を共有する人。発明に対して新しい発想のある人。しかも搭乗して実験と検証をする勇気のある人がいなければ、飛行機は無く、現在の航空業界も存在しなかった。

無名のベンチャーが新規性のあるビジネスを展開しようとするのならば、最初に、どのようなお客様がいて、どんな夢を持ち、どのような状況で、製品やサービスを購入するのかを熟慮したほうがいい。

ソフィア・クレイドルは携帯アプリの圧縮技術ユーザーインターフェイス技術でスタートした。

現在も世界市場で同業他社を見出すことは難しい。製品が完成したばかりの頃は、知名度や実績、特に営業の点で見劣りする部分がかなりあった。今年の夏あたりからは急に風向きが変わったように、製品が自然に売れるようになった。

その経緯について製品の成長の観点からまとめる。

ソフィア・クレイドルが開発し、販売しているものは、携帯アプリの開発の生産性や品質を飛躍的に高めるツールである。

圧縮ツールにしてもユーザーインターフェイスにしても、いろんな種類の携帯アプリでの採用実績があって初めて製品として誇るに足るものになるのではないか。何の実績も無いものを使うというのを、先の飛行機の例で述べると、世界で初めて研究開発した飛行機らしきものに乗ってみることなのである。どうしても飛行機に乗らなければならない、という状況にあっても、いくら安全であると説明されても、それは、やはり危険な賭けであり、大変な勇気を必要とする行為だったのにちがいない。

創業時は無名であるソフィア・クレイドルの製品をなぜお客様が使う必要があるのか?

何の実績も無いのである。

携帯アプリの世界では、プログラムサイズの制約や使いやすいユーザーインターフェイスを持つアプリを開発することが想像以上に厳しいことに着目していた。

当時、世界市場ではどの会社もそんなことはしていなかった。実現できるかどうか、それから、開発したものが売れるかどうかということは客観的には分からない。

私たち自身、携帯電話向けのソフトウェアの開発者として、そのようなソフトウェアテクノロジーを渇望していた。抑えがたいニーズとウォンツはあるに違いないと信じた。

2004 年 12 月 13 日 : 異なった色彩の輝き

オフィスでメダカたちを飼育している。

物理的には同じ条件なのに、メダカに見えるものと人に見えるものは異なっている、と言えば、それは誰もが納得するだろう。

創造性を育む組織を構成するためのヒントがここにあると思っている。

パソコンや GUI のコンセプトを考案した、コンピュータ業界の偉人アラン・C・ケイ氏は、子供との対話の中から画期的な発明に繋がるヒントを得ることが多いという。

子供には、大人にありがちな固定観念というもが無いからだという。アラン・C・ケイ氏は子供たちと共に日々を楽しんで過ごしているらしい。

人間と動物の違いは、人間は、書物や人からいろんな物事を学んで、これまでに無かったものの創造を積み重ねることで、文化や文明を築き上げるところにあると考える。

社名であるソフィア・クレイドルには 人だからこそもっている智慧というものを大切に育てていきたいという意味が込められている。それ故に、創造的であるためには如何にすべきかということは経営上の最重要課題なのである。

会社はスタッフによって創られてゆくものであるから、まずどんなスタッフで構成するかということが懸案事項になってくる。

ダイヤモンドは、どの角度からも見ても輝いているので美しく高価な価格で売買される。それと同じように、一流の製品には深みというものがあって、どんな人が見ても素晴らしいと言えるものほど一流といえるのではないだろうか。

ビジネスには、お客様をイメージし、製品を発想し、実現し、マーケティングし、販売し、アフターフォローするという一連の流れがある。ボトルネックの理論によると、ビジネスの品質は最も品質の悪い部分と一致すると言われる。一気通貫して、すべてのプロセスが"一流"である時にのみ、"一流"といえる製品を世に送り出せるということだ。

今年の春までは営業に難点があった。インターネットを駆使したマーケティングという手法を取り入れることで、販売システムが改良され、会社全体のクオリティが大幅に改善された。

世の中を見ていて、同じような人たちばかりで組織を構成しているが故に、その人たちの得意分野は凄いのだけれども、他の部分が笊のように穴ができてしまって、全体としては残念な組織が多い。

組織構成で心がけていることは多様な人材で組織を構成すること。

実際、コンピューターや情報の専門家もいれば、デザイン、数学、文学、地球物理学、理論物理学、電子工学、経営学、芸術など様々なバックグラウンドを持つ人材が働いている。文化や背景がかなり違う外国からのスタッフもいる。

メダカと人間ほどではないにせよ、人によって見え方がそれぞれ異なっていることを期待している。

2004 年 12 月 12 日 : 新しいアトリエ

新聞や雑誌、テレビ、インターネットなどのメディアを調べれば、日々、いかにたくさんの新商品が生まれているかがわかる。メディアに掲載されないものもあるから、多種多様な新しい商品が、毎日大量に誕生しているのだろう。

売れる商品というものは指折り数えるくらいしかないのが現実だ。コンビニに行くとよく分かるけれど、新商品は、いつの間にか無くなっている。書籍や CD も売れるのはほんのごく一部で、残りは売れずに返品される。

新しいものを創るには、たくさんの人とお金と時間が掛かる。貴重な経営資源を投入するのだから、なんとか有効に使いたいものである。数少ないけれども、大ヒットする新商品があるということは、ヒットする可能性はゼロではない。

世の中の動きを観察していると、画期的で革新的な新商品、つまりほんとに新しくて素敵なものは、大企業というよりもベンチャー企業から生まれるものが多い。ベンチャーという環境がそうさせているのだろう。ベンチャーといえる場所に、新しいコンセプトが生まれて、具体的な商品というかたちになって、世界にその姿を現す。

ソフィア・クレイドルは携帯電話のソフトウェアを研究開発している。

ソフトウェアという製品としての良さは、一旦完成すれば再生産するためのコストは限りなくゼロに近いということ。インターネット技術の発展のお陰で、インターネット経由で世界のいたるところに流通させることも可能である。ある日突然、世界的な企業になることも夢ではない。

ベンチャーのスタッフは、自分たちが世界を変える壮大なプロジェクトに関わっているということに、プライドを持ってもよい。

ベンチャーである以上、失敗すると後が無いというように、退路を断って仕事をする姿勢も大事である。

自分自身を背水の陣に追い込むと、不思議なことに、睡眠中も潜在意識が働いてくれて、いろんなアイディアが自然と浮かんでくる。

世の中にないようなコンセプトの新しいモノを創ろうとすれば、前例がないことだから、未完成に終わってしまう可能性もある。だが、環境次第では、不可能が可能になることだってあるのだ。

ベンチャーはそれが現実となる場である。そのたびに言葉では表現できない感動が訪れてくる。

できるだけ 20 歳前後の若者(それは、どちらかというと、実年齢より精神年齢において)を、スタッフとして採用するように心がけている。

新しいものを創造しようとすれば、経験や固定観念が邪魔をしてしまうからだ。未経験であれば、先入観がないので、新しいヒントが生まれることも多い。

限られた時間をどう活かすべきだろう?

自分の趣味に取り組んでいるときに、時間を忘れてそれに没頭していることはないだろうか。人間の脳というものは、時が経つのを忘れるくらいの時に、最もよく働くのではないだろうか。最も好きなこととして仕事に取り組んでいれば、最高の仕事ができる。「好きこそものの上手なれ」ということで、スタッフが好きなことしか仕事にしないようにしている。

苦心を重ねて完成した製品も、世間の常識からして新しければ新しいほど、採用してもらうのは難しい。新聞、雑誌、インターネットのメディアに掲載されるだけでもダメ。プレゼンやプレスリリースのメッセージを、製品開発と同じくらいよく考える必要がある。

大切な考え方は「お客様と一緒に製品を育ててゆく」ということ。

まったく新しい商品の場合、最初は作り手の一方的な思いが製品に反映されてしまう。けれども、これではお客様のニーズが 100% 満たされることは少ない。製品評価版などを、先進的なお客様に提供した後は、対話しながら、貴重な意見やニーズを取り入れてゆくことで、製品としての付加価値が飛躍的に高まる。

こんな風にして創られる製品は数少ない。だから生き残るべくして生き残るのである。

2004 年 12 月 11 日 : コンピューター細胞

ものが豊かに満ち溢れている 21 世紀。今ほど、創造性や独創性といったものが重視される時代はない。実際、何か新しいもので、凄く良い!と思うものしか受け入れられなくなってきている。

創造性や独創性といったものは何処からやってくるのだろうか?

何故か日本の学校では、最も必要とされる、能力や才能を伸ばすような教育や訓練がなされていない。与えれた問題をパーフェクトに解答できるか否かで、個人の評価が決まるシステムである。

大切なのはインビジブルな新しい問題に気付くことだ。

お年寄りから子供まで誰もが簡単に使えてしまう、Windows などのコンピューターのユーザーインターフェイスはどのようなきっかけで発明されたかご存知だろうか?

グラフィカルに表示されるので、コンピューターのユーザーインターフェイスを指して、グラフィカルユーザーインターフェイス、略して GUI と専門用語では呼ばれる。

GUI の基本的な原理を発明したのは、アラン・C・ケイ氏である。ジェームス・D・ワトソンが書いた『Molecular Biology of the Gene』という遺伝子生物学に関する書物からインスピレーションを得たという。

生物の仕組みは、想像できないくらい複雑である。しかし、細かくみてみると、細胞や遺伝子という極めてシンプルな単位に還元されることがわかる。

アラン・C・ケイ氏は、時の経過と共に複雑化してゆくコンピューターシステムへの問題に対して、生物が複雑性を対処する方法を応用することを思いついた。

ソフトウェアを、生物の細胞のような小さな独立した単位(モジュール)で作るような手法で解決できると考えたのだ。この単位(モジュール)のことを、コンピューター用語では「オブジェクト」と呼び、この考え方を「オブジェクト指向」と言ったりする。複雑な構造を持つ GUI も単純化され、短期間のうちに実現された。

本当に画期的な発想だった。

アラン・C・ケイ氏が遺伝子生物学からヒントを得なければ、コンピューターも今日のようには発展していなかった。

この事例から多くの示唆が得られるだろう。

Creativity is just connecting things. (創造性とは物事を関連付けて考えることに他ならない)」アップルコンピューターの創業者 スティーブ・ジョブズ氏は”WIRED”という雑誌で簡潔にこう発言している。

創造性や独創性があると言われる人は、他の人より様々な体験や経験、学習をして知識を得るとともに、そこで物事を深く感じとったり、洞察したり、新しい視点で見たりする習慣がある人なのではないだろうか。

簡単なことに思えるが、これができない人が多い。子供の頃からの型にはまった受験勉強が、創造性や独創性の阻害要因となっているのかもしれない。

追記:

創造的な仕事をするためのヒント:

Windows の GUI のような大規模で複雑なシステムをそのままダイレクトに実現しようとすれば、大半の人がその複雑性の壁に跳ね返されることになる。

アラン・C・ケイ氏が、複雑な生物の仕組みが遺伝子や細胞などの根元的には極めてシンプルなメカニズムからなることにヒントを得たように、複雑なものほど、シンプルに考える癖をつけるべきだろう。

ものごとを 100 倍簡単に考えることができれば、パフォーマンスは 100 倍となる。1 人の人間が普通の人の 100 倍以上の働きをするためのコツはここにある。

シンプルに、クールに思考する習慣が大切だと思う。

2004 年 12 月 10 日 : Professionality and Cradle

真にプロフェッショナルといえるような感動を創造する仕事をしたい、というのが願いであり目標である。

プロという名の付く世界では、常識といえよう。でも、ビジネスの社会ではアマチュアレベルの人が、何と多いことだろうか!

超一流といわれる大企業とて例外ではない。

サッカーにしてもラグビーにしても或いは甲子園にしても、アマチュアはプロには全く歯が立たないのが現実。アマチュアが大半を占めるのがビジネスの世界では、ベンチャーが大企業を凌駕するのは簡単である。

会社のメカニズムをプロフェッショナルにすればよいのである。プロはアマチュアに負けないから。

プロの世界では、最初から自然淘汰、適者生存の仕組みが備わっている。つまり一流でないと生き残れないという厳しい世界である。イチローのように、自分の才能や素質を活かして、たゆまぬ努力を継続することで、世界に感動の渦を巻き起こすことも可能である。得られる楽しさや達成感はきっと他に代えがたいものだろう。

スタッフのプロフェッショナリティの萌芽を育てつつ、そんな感動を体験して、いつもワクワク&ドキドキしていたい。

プロの世界では、どのように自然淘汰、適者生存の仕組みが導入されているのだろうか?

シンプルなルールがそこに在る。

サッカーの場合、レギュラーの選手は 1 チーム 11 名だ。そもそも 12 名以上選手が試合に同時に出場して戦うことは有り得ない。ということは、レギュラーポジションを巡って熾烈な切磋琢磨な競争が繰り広げられる、ということになる。

グループにしても、J リーグでは J1、J2、J3というようなグループに分けられ、成績次第で上位グループや下位グループに所属することになる。ステイタスや収入面でもその差は天国と地獄らしい。だから、選手たちは自然と努力することになる。(J3 はこれからの構想らしい。)

最近、イタリアのセリエ A などヨーロッパサッカーの舞台で世界的に活躍する日本人選手も出てきている。

会社に置き換えてみたらどうだろう。会社の場合でも、J1、J2、J3 のようなグループを編成する。プロのサッカー選手と同じように決まった定員しか、プロジェクトには関わることができないようにする。プロジェクトが、人生を賭けるほど価値のある素晴らしい体験であれば、ビジネスの世界でも、J リーグの感動を呼ぶプレーのようなアウトプットも生まれるに違いない。

そう、ビジネスだって、プロジェクトチームのメンバーで感動プレーを創ることができる。

2004 年 12 月 09 日 : 競走・競創・共創!

「彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず。彼を知らずして己を知れば一たびは勝ち一たびは負く。 彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし」

これは「孫子」謀攻篇第三に出てくる有名な言葉である。(あとで出てくる言葉は、ことわざやとある有名人のとても気に入っている言葉である。興味のある方は誰の言葉か探してください。1は『ケータイビジネスを革新する技術 BREW』の著者の平野さんならスグ判るだろう。)

多くの人が気付いていないニッチだが、将来は何十兆円もの産業に成長する分野。大企業が参入しても、勝てる理由があれば負けない。

それは何故か?

大企業での勤務経験を通じて思ったことをまとめてみよう。

1. そこに意味があるのなら・・・

独立系のベンチャーは、自分以外は全員アルバイトというような状態からスタートする。当然、大企業が得意とする何十名、何百名以上もの人やそれに付随する設備が必要な土俵に上がっても完敗が待っているだけである。ほんの数名だけでもビジネスが完結するような土俵で勝負すべきである。

強みであるソフトウェアテクノロジーを有効に活かすために、携帯電話向けソフトウェアの分野を選択した。

創業した 2002 年時点では、ほんの数名からなる組織でも、各々のメンバーが優秀で熱意さえあれば、超一流の携帯電話向けソフトウェアを創れた。たとえば、SophiaFramework のソースプログラムのサイズは 20 万行(この文字と同じくらいの大きさで A4 用紙に印刷して12 センチバインダーが一杯になるくらい)の規模だ。これならば、10 名くらいの研究開発体制でも 3 年かけて勝負できる。

2. 好きこそものの上手なれ

創業以来拘っている、スタッフィングのポリシーは、一流企業のエリートに匹敵する、潜在能力を持ったメンバーで組織化すること。適材がいなければ敢えて採用せず、少数で凌ぐことを優先させた。

人材を募集するときは『いまのプロジェクトを心底やりたいのかどうか?』を、その人の素質や能力以上に重視する。全てのスタッフは好きだからその仕事をしている。天職のように感じるので、自然と熱も入り、素晴らしい成果となって現れる。

3. 組織を憎んで人を憎まず

大企業の人事異動の制度というものは、ほとんどが本人の意思や能力が反映されていない。要するに適材適所がなされていない。やる気や仕事の遂行能力というものが最適化されていない。

概して、研究開発はスタートしてから 3 年以上経たないと、具体的な成果が見えないものが大半を占める。スケールの大きなものほど、熟成するまでには時間がかかる。

大企業の人事評価は、単年度の成果をみて評価する。その評価に応じて、ボーナスや昇給、昇格の査定が為される。1 年毎の勝負で会社そのものが動いている。

良い評価を得ようとすると、どうしても短期的な成果を求めて動くことになろう。直ぐに結果が出ないものに敢えて飛びつこうとする社員は滅多にいない。

4. ベンチャースピリットこそすべて

ベンチャーで成功した時、自分の名を歴史に刻める。アップルスティーブ・ウォズニャックマイクロソフトポール・アレンオラクルボブ・マイナーサン・マイクロシステムズビル・ジョイ、等など。世の中に大きな貢献できるからこそ、その名が永遠に残るのだ。要するに自己実現が果たせる。

収入面でも差がある。ベンチャーでは収入に上限はない。

一財産成した後は、次のステージへと進み、別の意味でゆとりのある、輝かしい展望が拓ける。スターミュージシャンやプロアスリートのようにして、果てしない夢と希望をもって、有意義な人生を過ごせる。

ベンチャースピリットに、ベンチャーは勝てる理由を見出せる。

2004 年 12 月 08 日 : 天国への階段

あるテレビ番組でやっていたクイズが印象深い。

『これまで辿ってきた 1 本の道が、ある地点で 2 本の道に分岐している。一方は天国へ繋がる道で、もう一方が地獄へ繋がる道だという。そこには 2 つに分かれた道の真実について知る 2 人の門番がいる。1 人は質問にいつも正しく答える。もう 1 人は質問に対していつも真実とは逆に答えるという。外見上、どちらが正直に答える人なのかは分からない。こんな状況で、どちらか一方の門番に 1 度だけ質問する機会が許される。では天国に行くにはどんな質問をすればよいだろうか?』

ベンチャービジネスでは資源が限られているため、常に正しい「選択と集中」が大切になってくる。経営資源の関係で、どうしても 2 つのうちの 1 つしか選べないことも多々ある。

一方は天国、もう一方は地獄というのもよくある話。天国と地獄ならば、一目瞭然な結末かもしれない。人間には未来を完璧に予知することはできない。地獄へ繋がる道を選択してしまい、闇雲に進んでしまうこともある。

そういう運命に甘んじていることはできない。

このクイズにしても、何も考えずに道を選択すれば 50% の確率で地獄に行ってしまうことになるのだが、ある問いを発することで 100% 天国に行ける。これはベンチャーにも当てはまる。「孫子」の"百戦百勝"も創意工夫すれば実現可能と思う。

大企業は巨大資本を背景に両方を選択できる。ベンチャーではそれが許されない。

このことは、ベンチャーが一流企業へと飛躍するチャンスでもある。意思決定をする際に、"深く考えるプロセス"を繰り返すことで、判断能力を養える。

例えば、100 万円が当たる宝くじが有ったとしよう。ある人は 100 円しかなくて 1 枚しか買えない。しかし、もう 1 人は 1 万円あるので 100 枚買える。この 2 人が 2 人ともが当選したとする。前者は 100 円の投資で 100 万円を獲得したので、パフォーマンスは 1 万倍だ。もう 1 人は 1 万円の投資で 100 万円を獲得したので、100 倍である。2 人とも同じ 100 万円を獲得したわけだが、パフォーマンスという観点からは 100 倍の開きがあるのだ。

宝くじの場合は、当たるかどうかが買う人の意思に関係無く決まってしまう。ベンチャーの場合、意思決定するのは本人である。"選択と集中"のセンスを磨けば、宝くじでいうところの当選を連発させることも充分有り得る話。確率的な話ではなく必然にしてしまうこともできる。

大企業ならば 100 通り選択できるが、ベンチャーでは 1 点でしか勝負できない。極端な話だが、考え抜かれたロジックで、その 1 点勝負を確実に勝ち続けることで、大企業の 100 倍の成長率を達成して、一流の企業へと成長してゆける。

"選択と集中"のセンスがある限り、ベンチャーはたゆまなく成長を続けることであろう。

追記:

正しく意思決定するために、私自身が心がけているシンプルな原理原則。クイズの問題よりも超シンプルかも。

「それは人の役に立つことなのか?」

という問いに対する答えが"Yes"なら「選択する」ように努めている。


◆クイズの答え↓

続きを読む "天国への階段" »

2004 年 12 月 07 日 : 風を感じる日

ヨーロッパの IT 企業の幹部の方が来社された。ソフィア・クレイドルのソフトウェアテクノロジーに関心があったらしい。興味深い話もあった。

今、ヨーロッパでは携帯 Java や BREW のモバイルアプリケーションのマーケットが急拡大しているらしい。日本より勢いがあるかもしれない。

ハードウェアの急激な進歩に伴い、携帯電話でも、3D を駆使した高度なゲームなどが当たり前のようになってきた。

ゲーム専用機が辿っていった道筋に沿って進んでいるのだろうか。携帯電話のゲームもプレイステーションのようなものに進化していきそうだ。

ソフィア・クレイドルの研究開発しているソフトウェアテクノロジーに対するニーズも、以前よりも強くなってきている。ハードウェアとソフトウェアは車の両輪である。素晴らしい携帯アプリを制作するにはバランス感覚が大きくものをいう。

近年の目まぐるしいばかりの携帯電話のハードウェアの進歩は、追い風であり、チャンスでもある。

米国、中国、韓国など世界中の国々から、評価版提供申し込みなどの問合せ件数が、時間の経過と共に増えている。商品の操作画面、マニュアルなどが英文化されていない。海外のお客様を待たせしている状態である。

携帯 Java 専用アプリ圧縮ツール SophiaCompress(Java) に対するニーズは確かに感じとれる。世界マーケットを見渡しても、SophiaCompress(Java) には類似製品はほとんど無く、圧縮性能は世界でも最高水準である。(競合がないからという話もある)

そろそろ世界デビューのタイミングなのかもしれない。

NTT ドコモの i モードの海外市場は、国内の 10 分の 1 しかない。しかし、携帯電話向け Java や BREW のマーケットに関しては、海外は国内の 10 倍以上と桁違いに大きい。

こういう事情もあって、まずは SophiaCompress(Java) から海外マーケットへの取り組みに着手しようと考えた。

SophiaCompress(Java) に関する研究開発一筋の、いまやソフィア・クレイドルを代表するプログラマー( 23 才)に海外対応を依頼した。若くても世界の仕事ができる。ベンチャーで働く特筆すべきメリットである。

大企業の場合、特別選抜されたごく少数の幹部候補でも無い限り、20 代の頃は下積み時代となる。若い頃はなかなかビッグチャンスというものは巡って来ないものだ。

20 代前半で世界に挑戦できるということは、その後の人生に大きな影響を及ぼすだろう。ベストオブベストの結果を見出せるように、全力を尽くすつもり。ちょっとした成功体験の積み重ねが、掛け替えのない自信へと繋がってゆくのだから。

来年は動きのある一年になりそうな予感がする。

2004 年 12 月 06 日 : IBMで学んだこと

1987 年から 1993 年までの 6 年間、IBM に所属していた。その時に、経営についてヒントとなる貴重な事柄をいくつか学んだ。

いまでも尊敬すべき企業であることに変わりはない。当時、コンピューターといえば「 IBM 」という程、コンピューター業界の「蒼き巨人( Big Blue )」であった。マイクロソフトオラクルインテルなど世界に名だたる IT 企業も、IBM なくして今日の姿は有り得ないほどの偉大な存在だ。

IBM の経営理念、事業の考え方、進め方などはとても素晴らしい。そういった基盤が磐石であるからこそ、なるべくして IBM という存在が生まれたのだと、今にして思う。

IBM に入社する以前の私は、最先端をいくコンピューターサイエンスの研究というものにしか興味がなく、ある意味では視野の狭いところが多分にあったかと思う。IBM にて、実用的な観点から、高度なコンピューター技術を元にして世界的な超一流のビジネスを創造し、維持し、発展させてゆく方法論というものを実地で学んた。( IBM には感謝している)

IBM で学んだ経営のヒントについてまとめてみる。

1. 経営理念

IBM では経営理念というものが大切にされた。IBM に入社すると、全ての社員は経営理念について 1 ヶ月間にわたって徹底した教育を受けた。

IBM の経営理念は 3 つの概念からなる。

1 番めは"個人の尊重"。社員の個性というものを尊重するということ。経営理念の中でも一番上にランキングされている。IBM では、顧客や株主以上に社員を第一番目に位置付けていた。社員が創造する商品やサービスから全てが始まるということだろう。

2 番めは"顧客への最善のサービス"。顧客が感動し、感激し、感謝するくらいのサービスを目指した。

3 番めは"完全性の追求"。仕事をやる以上、手を抜かず、常にパーフェクトなアウトプットを求めて行動するということ。

以上の 3 つが IBM の基本的な経営理念の考え方である。超一流のビジネスを為すために必要な事柄がシンプルに纏め上げられている。

2. THINK

IBM の礎を創ったのは Thomas J. Watson という人物である。彼は工場の作業員や事務員に至るまで、全ての IBM 社員が自律的に自ら考えて仕事をするスタイルを奨励した。

社員は自分の仕事に対して遣り甲斐や達成感というもの実感することができた。社員の仕事に対する取り組み方は他社と比べて、数倍も、数十倍も、違っていた。自然と、年々業績も伸び続け、遂には IBM はエクセレントカンパニーと称される会社へと成長していった。

IBM 社内では、ボールペン、手帳、時計、演壇など至るところに「THINK」という文字が刻み込まれていた。Thomas J. Watson によれば、本当の「THINK(考える)」という状態に至るまでには、以下の 5 つのステップがあるとしている。

STEP 1. READ (本や雑誌などを読む)

STEP 2. LISTEN (人の話に傾聴する)

STEP 3. DISCUSS (周囲の人たちと議論する)

STEP 4. OBSERVE (物事の推移を観察し洞察する)

STEP 5. THINK (考える)

5 つのステップを経て「THINK(考える)」という段階に辿り着くのだ。日常振り返ってみて、単に「考えている」ということだけをして何のアウトプットも出さずに、時間を無駄を過ごして人は少なくはない。超一流のアウトプットを生み出すために、上記に掲げた「THINK」に辿り着くまでの 5 つのステップはシンプルだが重宝な方法論だ。

追記:ある書籍によると、「THINK」には続きがあって、

STEP 6. CONCEIVE (考え方を打ち出す)

STEP 7. PERFORM (実践する)

STEP 8. LOVE (愛する)

ということに帰着するらしい。

3. ビジネスの真髄

今でこそ、IBM もコンピューターメーカーとして有名な会社であるが、その出発点はミンチなどを作るための「肉切り機」製造メーカーだった。何故、コンピューターメーカーになったのかの経緯は私自身よく覚えていないが、 IBM には「顧客の問題を解決する」ということを第一に考える社風があった。要は、顧客の問題を解決するために必要なものを創るという姿勢だ。顧客のニーズに合うように事業を展開した結果が今日のコンピューターメーカーとしての IBM という訳だ。

IBM 在籍時には、「未来の IBM はコンピューターメーカーでなくなるかもしれない」という話をよく聴いた。

IBM では、仕事をするときは以下のような考え方が徹底されていた。3 つの問いかけの中に、ビジネスを成功に導く重要なエッセンスが隠されている。

Question 1. 顧客は誰なのか?

Question 2. 顧客が抱えている問題は何か?

Question 3. 何故 IBM なのか?

以上の、「経営理念」、「THINK」、「ビジネスの真髄」の 3 つは IBM で学んだ、最も重要な経営の本質であると同時に、私の原点でもある。

◆書籍の紹介:

IBM の経営の基本的な考え方を知るには、下記の書籍が最も参考になる。ビジネスのエッセンスが簡潔にシンプルにまとめられている。

「IBM を世界的企業にしたワトソン Jr. の言葉」
Jr.,トーマス・J. ワトソン (著), Jr.,Thomas J. Watson (原著), 朝尾 直太 (翻訳)
ISBN: 4901234528

<前のページ | 次のページ>

 1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8  |  9  |  10  |  11  |  12  |  13  |  14  |  15  |  16  |  17  |  18  |  19  |  20  |  21  |  22  |  23  |  24  |  25  |  26  |  27  |  28  |  29  |  30  |  31  |  32  |  33  |  34  |  35  |  36  |  37  |  38  |  39  |  40  |  41  |  42