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Sophia Cradle IncorporatedPresident Blog : Venture Business

2005 年 01 月 27 日 : リスクヘッジ

大企業でサラリーマンをしていた頃、毎月、決められた額の月給が自分の銀行口座に振り込まれるのが至極当たり前のように思っていた。

前にもお話したが、独立とはそのような生活から決別することである。自ら稼がない限り、自分の銀行口座にお金が振り込まれることはない。謂わば、フルコミッションのセールスマンの生活に近いかもしれない。いや、スタッフたちの生活もあるので、彼らが安心して暮らせるような稼ぎも必要だ。未だ誰も知らないブランニューなブランドの商品やサービスを扱うようなものなので最初は苦戦するが、それだけ稼ぐことができないと、キャッシュが尽きた時点で経営破綻が訪れる。

ベンチャーを起業した当初、私自身やスタッフたちの安定した暮らしのためにも、如何にして毎月充分な粗利益を叩き出し、しかもそれを単調増加させてゆくかということについて、もっとも頭を使った。

ソフィア・クレイドルはハイテクベンチャーである。必然的に研究開発している製品が完成し、それが売れ出すタイミングとなると、かなり時間が経過してからのことになる。ハイテクベンチャーの場合、製品が爆発的に売れ出すまで、資金面でどうやって凌ぐかという戦略はもっとも重要であろう。しかも、スケールの大きなテクノロジーほど、芽が出るまでにそれだけの時間とお金がかかるものだ。

第 3 者から資金を調達するという手段も選択できるだろう。その調達先が自社の未来にとって相応しいところであればよい。しかし、そうでない可能性も有り得る。ある意味では、一つの大きな賭けとなり、その会社の未来にとってリスク要因となり得る。そのリスクをどうヘッジするかのセンスがベンチャー起業家には求められよう。

その資金調達で成功する場合もあるが、失敗する可能性の方が大きい。例えば、大手ベンチャーキャピタルが精緻に調査した上で投資した優良ベンチャーでも、3 割しか上場できない事実がある。これが意味するところは、ベンチャーキャピタルからの資金調達は失敗に終わるケースの方が多い、ということである。この事実は自分のこととして受け止めるべきであろう。誰しも自分はそうはならないと思うものだ。シビアに世の中を見たほうが成功の確率は高まるのではないか。

ベンチャーキャピタルが投資する企業の中には、上場がほぼ確実なレイターステージの企業も多い。アーリーステージのベンチャー企業への投資が不成功に終わる確率は 7 割よりもずっと高いものと推察される。

ソフィア・クレイドルという会社を、成長のスピードは多少遅くともよいから、自分たちにあったペースで、着実に、そして堅実に経営を伸ばしてゆくことに、私は重きを置いた。だから、早期の株式公開が前提条件となるベンチャー・キャピタルなどからの投資は全て断ってきた。

タイミングを逸するかもしれないが、人間万事塞翁が馬という。それによって、新たな展望が拓けるかもしれないと楽観視している。

そうはいっても、生活するために最低限の日銭は稼ぎ出さねばならない。無名で全く認知度も、売る製品さえもなかった頃から、どうやってお客さまから商品やサービスの対価としてお金をいただけるかということで、いろんな意味で鍛えられ、私たちは生命力を得たのかもしれない。自給自足という言葉がある。そんな風にして、苦労や苦心を重ねてベンチャー創業期を過ごすことで、長期的に自らの成長を加速することもある。即ち、その逆も真なわけだ。

携帯電話向けソフトウェア製品を販売しているので、製品 1 つ当たりの粗利益を「@粗利」とすると、全体の粗利益は次の数式で表現できる。

   全体の粗利益=@粗利×数量

問題はどうやってこの数式で表現される「全体の粗利益」をマキシマイズさせるかである。

@粗利」(製品価格)の数字で、売れる数量も変化するが、ここではそれは最適な値に設定されていると仮定する。

この数式で恐ろしいのは、「数量」の数字がゼロということがよくあるということだ。寧ろ、世の中、いたるところで発表される大半の新製品は、売上数量ゼロで消え去っているといっても過言ではない。品質、機能性など、どこにも落ち度が無いのに売れない新製品が山のようにある。逆に、矛盾するようだが、そんなに大したこともないのに売れている製品も多い。

この事実から分かるのは、マーケティングの大切さであろう。もし製品が本当に素晴らしいのであれば、それを必要とするお客さまに、そのお客さまが理解しやすいメッセージで表現し伝えることができれば、その「数量」の値はぐんぐんと伸びてゆくだろう。そして、利益は天に向かって際限無く登ってゆく。

インターネットの場合、日本だけでなく全世界がマーケットであり、注文も光速のスピードで入ってくる。そのきっかけさえ掴むことができれば、粗利益というものは瞬間的に大きく伸ばしてゆくことも可能だ。

ベンチャー創業当初は会社や製品への認知度も実績もなく、マーケティングノウハウも少なかった。創業して、3年という歳月が過ぎようとしているがそれらの条件が整いつつある。

サラリーマンの場合、月給は固定給である。商売をやっていて面白いのは、製品をたくさん売るためのノウハウを確立することができれば、世界中からインターネットで注文をいただく、その瞬間にサラリーマンの月給を遥かに超える額を稼ぐことも可能だということだろう。

勿論、そこに辿り着くまでに、実にいろんな紆余曲折があるかもしれないが…。

  

2005 年 01 月 18 日 : 起業家の最終学歴

たまたま手にとった本(「ベンチャー経営論」)のあるページに興味深いデータがあった。

それは起業家の最終学歴に関するもので、1995 〜 1996 年のデータだが、いまもほとんどその傾向に変わりはないと思う。

それによると、最終学歴が大学院である起業家の構成比は日本が僅か 1.2 %に対して、米国は 26.1 %と大きくかけ離れている。(博士だけのデータがあるとすれば、その差はもっと開いていることだろう。)

だから、GoogleYahoo! など米国にはその名を全世界に轟かせるようなハイテクベンチャーが多いのかもしれない。

大学院は、専門性を核にした自己の創造性や独創性を磨くための場だと思っている。ハイテクベンチャーの起業家にとって、それは最も求められる素養のうちのひとつともいえる。

日本では大学院卒の起業家が少ない。ということは、裏を返せば、大学院で学ぶような専門知識を活かしたハイテクベンチャーが国内で成功する確率は高いのではないだろうか。それを足掛りとして、日本から世界へと飛躍できるかもしれない。

何しろ、単純に計算した競争率は米国よりも20分の1以下と桁違いに低いのだから。複雑な背景がもっとあるのかもしれないが、直感的にはそんな感じがする。

日本の場合、高学歴になればなるほど、人は保守的になるのがとても残念だ。そこに大きなチャンスがあるにもかかわらず…。

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2005 年 01 月 08 日 : Accelerate!

創業 4 年目を迎える。

創業した当初は、霧の中を走るような感じで未来のことをはっきりとイメージできなかった。でも、いまではだんだんとそれが見えるようになってきた。

やっていて分かったのは、未来は自ら切り拓き、創るしかないということだ。強く念じたことは時間を要しても確実に実現してきた。

最初は建物の基礎を創るような仕事が大半を占めた。大地震が来ても倒壊しないように、建物でも高層ビルになればなるほど、その基礎はしっかりとし磐石なものになっている。あるいは、メルセデス・ベンツのように完璧で安全な車を製造する過程もそうなのだろう。

基礎の上に、できる限り高く美しい超高層ビルを建てたい。だから、会社を創業してからずっと基礎固めを何よりも重視して仕事に励んできた。その基礎工事もようやく一段落する。

基礎を創るという仕事は、「売上」や「利益」といったように直接目にすることができないので、感性によって完成の具合を見極めるしかない。人によっては目隠しをされて自動車を運転するような不安感を抱くかもしれない。

これは、研究開発型ベンチャーが成長するために、乗り越えなければならない最初にして最大の難関なのだろうと個人的に思っている。

私たちがやってきたことは、本気になってやろうと思えばきっと誰もができることだろう。しかし、ゼロの状態からスタートし、確実な未来が保障されない中にあって、その努力を創める人も少なければ、継続する人はもっと少ない。ビジネスチャンスは、大抵こんなところにあるものだ。

最も大切なのは「アイデアを具体的な行動に結びつける」ということではないだろうか。

実際問題として、これができない場合が大半。だから、競争そのものがなくなって、そのレースに参戦しているだけで勝ち組になれる。能力や才能に自信を持てなかったとしても、それを創めた者は実地の体験や経験を通じて自己の潜在能力を開花し、ブレークスルーしてしまうのだ。とにかく、初めの第一歩を踏み出すのが肝心だ。

若ければ若いほど、人は自分の夢と希望を鮮明にイメージしている。無気力のようだとか、楽をしたいだけなのではないかと評されても、あるいは自らもそう思い込まされているだけ。本当は、潜在意識の中であっても、イメージをちゃんと持っている。だからこそ、実際にはいろんなアイデアを実現できるチャンスに恵まれている。けれども、それを実現する具体的な手段や進む方向が直ぐには分からない。

1 人でも夢と希望を共感するスタッフがいる限り、実現の可能性はゼロではなくなり、ゴールに向かって前進している。そのまま歩み続ければよい。

勇気を出して挑戦するだけで、成功する確率はぐっと高くなる。アイデアというものは、後から振り返れば、あんな簡単なことは自分でもできたのに!と人が悔しがって思うようなものばかりだ。

超高層ビルでいうところの、基礎を創る段階を越すと、次第にその先にある未来の展望が遥か彼方まではっきりとしてくる。ベンチャーをやっていてワクワク&ドキドキする瞬間の始まりでもある。

創業 1 年目は、ブランドも実績も、売るべき製品も無かった。少しばかりの資本金と志を同じくするスタッフたちだけだった。創業初年度と 4 年目のいまを比較すると、この 3 年間で大きな違いがあることに改めて気付く。私たち自身、これまでいろんな苦労や壁を乗り越える度に成長してきた。いまは過去に実績があり、しかも完成度の高い製品だって存在している。会社や製品のブランドも少なからずある。はっきりと確認できる「売上」と「利益」というものも毎月増加している。

ベンチャー起業というのは、苦しい環境にあっても、それを突破する過程において、自らの潜在的な能力を獲得、開花してゆくプロセスに近い。そのプロセスを繰り返す毎に、ベンチャーは加速度を増して急成長してゆくのではないだろうか。

根本を辿れば、結局は私たち自身そのものにあることがわかる。人間的な成長なくしてそれは達成し得ない。ある意味では、ベンチャーを創める意義をそこに見出すこともできる。

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2005 年 01 月 05 日 : Viewpoint

年明け早々なのに、新たにカナダ、ポルトガル、タイ、ベトナム、デンマークといった意外な国々からも問い合わせが来るようになってきた。恐らく日本で利用されているような高性能な携帯電話が、きっとそういった国においても普及の兆しがあるに違いない。

昨日、今日と、会社は休みなのだけれども、インターネットを駆使して、米国のある会社とソフィア・クレイドルの製品導入の検証をしている。問題となる箇所も特定できたので、多分うまくいくことだろう。ここに導入すれば、ソフィア・クレイドルにとって初めての海外進出ということになる。(こういう時、インターネットの偉大さや有り難さといったものを痛感させられる!)

今年は期待が持てる楽しみな一年だ。これまで努力して研究開発してきた製品の成果が現れ、拡がってゆく。さらにより高い目標を打ち立てて、ひたすら努力することが大事ではないかと考えている。そして、一歩一歩自分たちが成長することに、人生の意義を感じるようでありたいと願う。

ベンチャービジネスで成功するためのキーとなるポイントの一つは着眼点ではないだろうか。天才的な頭脳を有する会社であるのに、伸び悩んだり、倒産、吸収される会社が後を絶たない。戦略的に間違った選択をすれば、いくら戦術に長けていようが軌道修正のしようが無いということなのだろう。だから、何かものごとを始める時は、それに将来性があり、自分たちの強みを発揮でき、自分たちにしかできない事業かどうか、それをよく洞察することが何よりも大切だ。

いくら将来性があっても、大手企業などの他社が参入しえないような、特別な理由や条件が無ければ、その事業は始めない方が良い。自分たちにしかできないことは何かをよく見極める必要がある。そのためにも創業する前に、自分たちの好きなこと、得意なこと、強みは何かということを冷静に、真剣に見つめ直すことだ。

i モードが導入された時点で、直ぐに携帯電話というものの将来性を非常に感じたが、どこから入っていけば良いのか、その突破口をなかなか見いだせずにいた。3 年という期間を費やして、ようやく『未来の携帯電話=ネオ・タイプの超小型モバイル PC 』という方程式に確信が持て、この分野に入るべき道を発見することができた。

しかし、何れ多くの競合他社がこの分野に参入することは予想された。そこで、結論から言えば、携帯電話のソフトウェアであっても、「どう転んでも 時間の掛かってしまう ビジネスの分野」を探し出す努力をした。それが現在製品となっている携帯ソフト圧縮ツール「 SophiaCompress(Java) 」と携帯ソフトフレームワーク「 SophiaFramework 」である。何れの製品も、天才的な一人のプログラマーが設計し、ごく少数の有能なプログラマーのチームでプロジェクトを構成して、実現していった場合の方が、格段と質の良いものをアウトプットできる。

携帯電話向けソフトは、メモリ容量や CPU の性能の問題があって、いまは量よりも質が重視される傾向にある。さらに、他のジャンルのどんな製品でもそうかもしれないが、ソフトウェアのクオリティというものは、それを構成するパーツの中で最も劣る部分で決定されると言われている。所謂、ボトルネックのことだ。多人数からなるプロジェクトの場合、どうしても様々なプログラマーが混ざってしまい、部分的にはすごく優れていても、ある部分が欠陥となり、総合的には陳腐なものになっている、という残念なことが往々にしてある。

そこに目をつけて、ほんの数名の少数精鋭のプロジェクトで、3 年というベンチャーにしては比較的に長い歳月をかけて、自社製品の完成度を高めつつ、実績を積み重ねていった。現段階でこれといった競合他社を見いだすことはできない。同じくらい天才的なプログラマーを擁して、いまからこの分野に参入したとしても、これまでの3年という歳月を挽回することは至難の技だ。

ベンチャーといえば、「スピード」というものが重視される傾向にあって、意思決定においてスピードはとても重要だと思う。しかし、反対に、製品開発においては、どのように頑張っても、例えば 3 年かかるような分野を選択し、3 年後にピークになるものにフォーカスを絞り、それを見計らって目立つことなくこっそりと研究開発を進めることも一つの重要な考え方だ。直ぐに実現できてしまうような、簡単な製品やサービスは、当たることもあるが瞬間的に消え去ってしまうのことの方が案外多い。

有り難いことに「時間」というものは、大企業にも零細企業にもすべてに対して、平等で最も貴重な経営資源だ。

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2004 年 12 月 26 日 : Phase transition

中学生の時に理科で習った「物質の 3 態」の話はいまでも興味深い。固体、液体、気体という状態のことを「相」といい、微妙な温度と圧力の組み合わせで、物質が瞬間的に「相」を移り変わることを「相転移(Phase transition)」と呼んでいたことを思い出す。

経営というのは絵を描いたり、作詞、作曲したりとアートに似たところが多い。マニュアル通りにはいかないことが多く、相転移にも似たような微妙な違いで相が大きく転移してしまう。だから、繊細な経営センスというものをどうやって培い、あるいは磨いていくかによって、その企業の未来が決まるように感じる。

相転移の実験のように、ちょっとした意思決定のタイミングやバランスといったものが、分岐点になってしまう。また、そういったことを意識するのとしないのとでは大きな違いがある。

スピードだけを重視し、熟考せずに意思決定し、たまたま大当たりして、波に乗れることもある。

転落というものは一瞬のうちに訪れる。あれだけ脚光を浴びていたのに、人々の記憶の中から消え去っていったベンチャーは星の数ほどある。

ベンチャー起業は多大な犠牲を伴うものだ。だから、その犠牲に補って余りあるほどの宝物、煌く宝石の結晶を、一緒に創業したスタッフと共有したい。

勿論、失敗もあるだろう。

失敗や痛みの中から、未来の発展に向けての新しい芽を見出すことが出来るならば、それは失敗ではない。

成功にできるか失敗になってしまうか、境界線は、極めて微妙なものではないだろうか。これが、沸点で水が液体から気体に相転移する時のような感じで、ほんの微妙な差で、固体であったり、液体であったり、気体であったりする。絵画でも、細部にこだわる時と全体のバランスでこだわらない時とがある。

ベンチャー経営というものは、相転移の境界線上を、如何にしてうまくコントロールしながら、アーティステックに自ら成長してゆく道のりではないだろうか。

  

2004 年 12 月 18 日 : 魔法のエンジン

道端に 1 万円札が落ちていたとする。大半の人はその 1 万円札を拾う。1 円玉であったなら、ほとんどの人は拾わずに素通りするだろう。

逆説的なようだけど、ビジネスでビッグチャンスを掴むためには、1 万円札よりも寧ろ 1 円玉の方を拾う。そして、その1円を大切にし倍々に増やすことを考えるのがよい!

1 万円札を拾うと、人は増やそうという発想よりも、拾った 1 万円を無駄に使ってしまう傾向がありはしないか?1 円玉を選択するなら、その時点ではそれだけでは何もできない。増やすには何らかの思考が必要になってくる。

お金というものは、何も考えずに使ってしまえばそれで消滅してしまう運命にある。お金を増やすエンジンを手に入れることができれば、永遠に無限にお金が産み出せる。

お金には不思議なところがある。

ゲーム理論的に、ビジネスで大事なのは、どうやってそのお金を産み出すエンジンを構想するかだ。1 円しかなければ、増やさない限り生きていけない。必然的にそんな発想になる。

2 ヶ月経たないと 2 倍にならないとしても、昨日の日記の話に書いたように、継続して 2 ヶ月毎に倍になれば 5 年後には 1 円は 10 億円になっている・・・計算では。そのペースでいけば、10 年後には天文学的な金額になっているだろう。

最初は元手が少ないので増えるペースが遅い。諦めて脱落する人たちも多い。だからレースに参戦しているだけで、知らず知らずのうちに最終的に勝利していたりする。

目先のお金に囚われず、長期的な成功を得るために、1 円玉を拾うような選択をしてきた。最初は事業曲線は水平線を描いていた。徐々に傾きが上向くようになってきている。

確かに苦しい時期もあり、その度にさまざまな事情で離れてゆくスタッフもいた。創業以来残っているスタッフは、試練に耐えてきただけに、安定した企業で働いていた場合よりも、1 桁以上も成長して立派になっている。

「 1 円玉を拾う」という選択には別の意味もある。

それは何か?

目に見えない魅力がたくさん隠されているのに、見かけが地味過ぎて、好んで選択する人はほとんどいない。

最初から強力なライバルが全くない。喩えるなら、多くの人は、渋滞する道路で目的地を目指すのに、空いている逆の道を快適に自分の好きなペースで前に進むような感じだ。

IT 業界で言えば、ブログSNSグループウェア検索エンジンのようなシステムは、なんとなく派手で儲かりそうな感じがする。多くの人が跳び付いてしまう。

そこでは熾烈な激しい競争が繰り広げられる。マイクロソフトと正面切って競争して勝つのは至難の技だ。

混雑した息苦しいところは避けたいので、ARM というようなプロセッサで機械語のプログラミングをしたりする方を選択している。都会の大きな本屋でも ARM というプロセッサのプログラミングの書籍を探し出すのは至難の業。それくらい、いまは地味な世界である。

100 人中 99 人は ARM ってなんのことか分からないと思う。実際にはほとんどの人が日常生活で利用しているにも関わらず。

ARM は、世界中の大半の携帯電話に採用され搭載されている。パソコンで言えばIntel(インテル)のような存在だ。携帯電話の心臓部分に相当するものである。数の上では、インテルの CPU 以上に世の中に普及している。ほとんどの人はこんなに大きなマーケットがあるのに入ってこようとしない。

インビジブルだからである。

本当のビジネスチャンスはこんなところにあるものなのだ。

今、ユビキタスコンピューティングのビジネスとはこんな感じで展開される。

ARM を研究して、任天堂ファミコンのゲームが au の携帯電話で動作する成果も得られている。 

インビジブルな魅力溢れるマーケットで、こういうエンジンの仕組みを考え出す辺りにベンチャーが飛翔できる道が隠されている。

  

2004 年 12 月 17 日 : ムーアの法則 −流線型の軌跡を描く−

ベンチャービジネスをする以上、会社に関わる全ての要素が指数関数曲線を描いて成長することを願っている。皆が幸福になるために、どうすればその成長を達成することができるのかという戦略を策定し、実践するのは経営者としての最も重要な役割だと思う。

指数関数のカーブを描くには、事業領域を定める時に、指数関数の原理原則で業界そのものが動いている領域を探し出せば良い。

いまの携帯電話向けソフトウェアビジネスを創める前に着目した要素は、i モードが発表された 1999 年頃からムーアの法則(Moore's lawが携帯電話にその舞台を移して働きだしているという前兆だった。

ムーアの法則とは、「半導体の集積密度は 18 ヶ月で倍増する」という法則のことで、米国インテル社を創業したメンバーの一人、ゴードン・ムーア氏が発見した。携帯電話の場合、集積密度が毎年倍になるくらい急激なスピードで、ハードウェアは進歩している。

ベンチャーにとって毎年倍増のペースで業界が成長するのは非常に有難いことなのである。何故なら、大企業が参入をためらうような、最初は無視できるくらいニッチな市場も、ほんの数年で巨大な市場へと成長してゆくからだ。

指数関数曲線を描く」とはどういうことなのか説明してみよう。

例えば、最初は収入が 2 円でもそれが日々倍増すれば 1 ヶ月後にはいくらになるか即答できるだろうか。

実際に電卓で計算すると次のようになる。

     1日目:          2円
     2日目:          4円
     3日目:          8円
     4日目:         16円
     5日目:         32円
           …
    10日目:       1,024円
           …
    15日目:      32,768円
           …
    20日目:    1,048,576円
           …
    25日目:    33,554,432円
           …
    30日目: 1,073,741,824円

5 日目の時点では収入はたった 32 円だったのに、その後、数字の伸びが急激に増えて 1 ヵ月後にはその収入は 10 億円という規模にまで膨らんでいる。実はインテルマイクロソフトオラクルもすべてこの法則の波に乗って成長していったのだ。

これは数字の話であるけれども、偉大な「ムーアの法則」が、一種の超小型コンピューターと見なせる携帯電話の世界でも確かに働き、その波に乗ることは不可能ではないと信じて事業を展開している。

この事業はまだ始まったばかりなので、上の例でいえば、いまは 2 円とか 8 円とか 32 円の程度の市場でしかない。しかし、世界中の全ての人々が携帯電話を持つようになれば、世界の人口は 60 億とも 70 億ともいわれているだけにその市場は大きい。だが、世界で携帯電話を所有する人口が指数関数的に増加をするとは考えられず、ある一定の有限な飽和点に収束することになる。

けれども、1 台の携帯電話の中に入っている半導体に着目すれば、上で列挙した数字の如くその集積度が高まる。従って、今後、たくさんのコンテンツやアプリケーションをインターネットからダウンロードし、無尽蔵に記憶させることができるようになると考えることができる。これから 10 年間は急激な勢いで、携帯電話にネット配信されるコンテンツやアプリケーションの市場が急成長すると見通している。

以上のような目論見で、次世代携帯電話にインターネット経由でネット配信される、期待を膨らませてくれるような、次世代のコンテンツやアプリケーションを、簡単に、瞬時に、開発できるツールを提供し、個々の携帯電話のメモリに保存されているコンテンツやアプリケーション 1 個あたりに料金を課金するビジネスモデルを展開しようとしている。

現在、世界市場には 15 億台の携帯電話が普及している。3 年後には 25 億台以上にまで普及台数が増える見通しだ。「ムーアの法則」によれば、携帯電話 1 台あたりに記憶可能なコンテンツやアプリケーションの数も、年々指数関数的に増え続ける。

要するに指数関数曲線の波を捉えることが最も重要である。

  
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