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2005 年 03 月 20 日 : 顧客の創造

大企業とベンチャー」の日記でも記したように「顧客の創造」ができればベンチャーも安定し、次のフェーズへのステップも見渡せるようになる。しかし、無名のベンチャーにとって「顧客の創造」というのは言葉でいうほど簡単じゃない。

今日は、私たちが『ソフィア・クレイドル』というベンチャーでどうやってその壁を乗り越えてきたか、或いは乗り越えて行こうとしているのか、『SophiaFramework』というソフィア・クレイドル製品を例にあげて戦略的観点からまとめてみようと思う。

先ずは『SophiaFramework』についての説明から。

『SophiaFramework』とはBREW搭載の次世代携帯電話向けソフトウェアライブラリーだ。携帯電話向けユーザーインターフェースを核としているのが大きな特徴になっている。(BREWについて:BREWとは!

簡単にいってしまえば、“パソコンのWindowsのようなGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)的な操作性を持つアプリケーションを携帯電話上で簡単に作れてしまう点”が最大の効能になっている。

携帯電話向けソフトウェア開発の業界を選択し、BREWに関する研究開発という事業に参入すると私たちが決断したのは2002年3月。KDDIがBREWのサービスを開始する一年前のことだった。その時、BREWのマーケットは日本国内には存在しなかった。世界市場を見渡しても辛うじて韓国のKTF、米国のVerizonというキャリアがBREWサービスを細々と開始し始めた程度で全く注目されていなかった。この業界の専門家の大半は、未来のすべてを託すかのようにNTTドコモiモードに集中していた。

BREWとは!の日記にも書いたように、次世代携帯電話が普及すれば、BREWはその世界的なデファクトスタンダードになりうる。それで事業をここに定めた。その時、私たちに幸いしたのは、当時はNTTドコモが世界的にも他のキャリアを圧倒していたので、BREWのコンセプトに着目し事業化しようとする人が少なかったことであろう。

一般に、ソフトウェアのデザインと開発で最も難しいのは、『ユーザーインターフェース』か『ネットワークプログラミング』ではないかと思う。私たちは先ず『ユーザーインターフェース』の部分に着目した。もともとBREWは米国で生まれたものであり、その当時アメリカの携帯電話は、日本よりも2〜3年時代遅れのものであったため、BREWが提供するユーザーインターフェースもそんな携帯電話で間に合うようなものでしかなかった。(こういうことは、世界の携帯電話事情を知らなければ意外に知られていないようだ。)日本国内の携帯電話にはメガピクセルカメラが内蔵されたり、QVGAという細かい文字や絵が描画できる液晶が搭載されいる。BREWがデフォルトで提供するユーザーインターフェースだけではそのハードウェアが持つ機能を十分に活かしきれるものではなかった。

パソコン、テレビ・ビデオ、自動車……どんなものにせよ、ユーザーインターフェースの革新と共にその利用者が圧倒的に増加し、そして利用者から支持され愛されるものになる。そこで私たちはBREWの携帯電話向けにユーザーインターフェースの革新を創造しようとした。

ベンチャーの場合、知名度のある競合他社が同じような製品を提供していると、余程の効能か営業力が無い限りそのベンチャーは生存すら困難な事態に陥る。私たちはそういった熾烈な競争を避けるために、最初は競合他社が存在しないBREWのユーザーインターフェースという、その当時極めてニッチなマーケットに照準を定めたのだった。

『GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)』は利用者にとって使いやすくその必要性は極めて大きい。しかし、その分プログラミングも複雑で大規模となり開発は大変である。

『SophiaFramework』の研究開発の過程において、さまざまな問題に遭遇しては、それを解決して一歩一歩進むというような感じで、一進一退のペースではあったけれど着実に歩を進めていった。携帯電話の特性上、貧弱な限られたハードウェアで“使いやすく豊富かつ高機能なユーザーインターフェース”という相矛盾する課題をどうやって調和をとって解決するか、が最大のポイントであった。

そんな風にして研究開発したユーザーインターフェースだから完成までに多くの時間を要したのだけれど、その時間の差そのものが『SophiaFramework』の競争優位性となったと思う。世界マーケットにおいて、“C++というオブジェクト指向プログラミング言語”によるWindowsのようなマルチウィンドウをBREW携帯電話で可能にしているものは未だに存在していない。

そういったGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)をBREW携帯電話で実現しようとすれば『SophiaFramework』しかない。謂わば『機能性』の希少価値を提供し、それによって顧客を創造するという戦略である。

無名で実績のないベンチャーであったにしても、そこにしか存在していなくて手に入れることができないものならば、その機能の必要性の強さに応じて売れる可能性が高まるだろう。そういったところに『顧客の創造』のヒントが隠されている。

追記:

希少価値があり圧倒的な機能性があれば、早かれ遅かれそれを採用したいと思う顧客が現れる。その最初の顧客に期待を遥かに上回る満足感を与えられるか否かがその後の命運を定めるような気がする。